ラミレス監督が配球!内角球の効果とは? タイムリーdata vol.79
2月7日に行われたDeNAの紅白戦。注目を集めたのは、ラミレス監督のよる新たな試みでした。キャンプ以前から「配球はベンチから指示する」とのコメントが報道されていましたが、この日ついに“ラミレス配球”を披露。2回と5回に捕手へサインを出し、被安打3自責点0(適時失策により失点1)と投手陣を好リードしてみせました。
その配球の中で目立ったのが、内角への投球です。監督自身も「7割は内角」というように、捕手が打者の懐へと構える場面が多く見られました。「このチームは過去10年、内角を攻めきれていない」とも話しており、実際にここ5年のデータはセ・リーグ他球団と比べても、DeNA投手陣がいかに内角へ投球していないかを証明しています。
ラミレス監督が重要視する内角攻め。今回はその効果について考えてみましょう。
内角球は打たれづらい?
2015年シーズンにNPB全体で投じられた255688球のうち、68080球が内角へのもの。割合にすると約27%です。投手から被打率で考えると、内角が最も打たれていないコースとなりました。しかし被長打率では外角を上回る.358を記録。“打たれづらいコースではあるが、打たれると長打になる”。15年のデータからはそのような傾向が出ています。
また投手目線で対角線の投球、つまり右投手は左打者へ、左投手は右打者への方が内角の投球が行いやすいでしょう。対戦する打席数で考えると、NPBでは右打者が55%となっており、左投手の方が内角を突く割合が多いため、以降は利き腕別で考えます。
内角を攻めるメンドーサ
左腕に多く見られる傾向
一方、左腕を見てみると、必ずしも右腕と同様のタイプとは言えないようです。先発で1位から巨人・ポレダ、広島・ジョンソン、日本ハム・吉川光夫といずれもスライダーやカットボールが得意なサウスポー。また救援でも左のワンポイントとして活躍するヤクルト・久古健太郎やロッテ・松永昂大などがおり、右腕に比べると横の幅を意識させるために内角を突く投手が多いと推定されます。
ここまでをまとめてみると、“ストレートに力がある投手”が多く、“詰まらせるため”もしくは縦横の幅を生かすために“見せ球”として内角を使うようでした。
そこでより具体的に個人の投球内容について注目していきましょう。注目するのは同じ救援左腕ながら投球スタイルの異なる2人です。
対左打者に強い久古
まずは久古。久古は左のワンポイントとして起用されることが多く、昨季の対左打者の被打率は.207と好成績をマークしました。その投球を支えたのが横の揺さぶりです。
球種、コースで分けると速球系のストレートやシュートは内角が多く、スライダーは外角へと投球されていました。ただこのようにいうと制球力があるようですが、昨季の逆球率は19.3%を記録しています。特にストレートは24.9%と約4球に1つは逆球になる計算。外角を狙った投球が内角に入る場面も多いということです。
いつどこへ来るかが読めないサイドハンドからの投球に対し、左打者は詰まることを嫌がるため、内角への意識を強くするでしょう。そのとき、外角へスライダーを投げられると対処は難しくなると想像されます。
実際にスライダーの奪空振り率は26%を記録。左対左の条件下でスライダー投球数100以上の投手の中ではNPBトップの数字でした。
“内角へ来るかもしれないストレート・シュート”と“外角へのスライダー”のコンビネーションが久古の左封じを可能としたのです。
対右打者に特徴を見せる髙橋朋
同じく左腕ながら右打者の懐を攻めるのが西武の髙橋朋己です。髙橋の一番の武器はキレのあるストレート。そのストレートで内角をえぐる“クロスファイアー”は打者にとっては厄介なものとなっています。
ただ今回は少し視点を変えて、スプリットに注目しましょう。総じてスプリット・フォークやチェンジアップといった落ちる系の球種は真ん中からやや外寄りのコースに要求されます。しかし、髙橋は2年続けてスプリットの奪空振り率の最も高かったコースが内角。もともとの武器であるクロスファイアーに対する意識と内角にスプリットを投げる珍しさが相まって、高い割合となっているのではないでしょうか。
ただ球種全体では15年の数字が悪化しています。そこで投球コースの割合を見てみると、15年は“定位置”というべき外角に7割。むしろ14年は制球を乱すことが多く、ほぼ半数が内角へのものとなっています。そのスプリットに対しタイミングの合わない空振りをし、打者が驚いた顔をする場面がよく見られました。“14年のスプリットの好成績は自身の荒れ球による意外性の産物”、という可能性が考えられます。
ここまで内角球について考えてきましたが、いかがだったでしょうか。改めて取り上げた選手を見ると、内角への投球が多いのは制球力に不安のある投手が大半でした。何かをもくろんで捕手が要求し、内角へと投球される場面はわれわれが想像しているよりもずっと少ない可能性があります。ともすると、コントロールの不確実性により、“結果として”内角へと投球された球がより有効なものへとなっている、のかもしれません。
一方で7日の紅白戦での“ラミレス配球”のうち、左打者に対し右腕・三嶋一輝が内角にチェンジアップを投げる場面が幾度か見られます。この配球は明らかに意図して要求したもの。意表を突くリードでした。ラミレス監督による内角への意識改革は、ひょっとしたら、プロ野球に新たなセオリーを生み出す……そんな希望がある挑戦ともいえるでしょう。