プロと球児と都道府県
夏本番を目前に控え、全国各地で夏の甲子園大会の予選が始まっています。ひと足早く開幕していた沖縄や北海道ではすでに勝者が絞り込まれ、間もなく地方大会におけるクライマックスの瞬間を迎えます。甲子園を目指す高校球児の数は全国で約17万人。甲子園のベンチに入れる選手は49代表校を合わせても最大で882人ですから、一握りの選手だけに許された、本当に特別な場所であることが分かります。
都道府県と部員数
2015年現在、硬式の高校野球部員の最も多い都道府県は東京です。47都道府県で唯一1万人を超え、最も少ない鳥取の10倍以上の競技人口を誇ります。ご存じの通り東京は東西に分けてそれぞれ代表校を決定しますが、それも納得できる部員数の規模であるといえるでしょう。
全国で2番目に部員数を抱えているのが愛知です。その数は8,667人に達し、代表校が1校であることを考えると最も競争の激しい地域のひとつとなっています。1989年の部員数は6,782人(全国7位)でしたが、年々部員数を増やして全国屈指の野球王国となりました。2009年には堂林翔太率いる中京大中京が全国制覇を成し遂げましたが、近年の「夏の愛知」は初戦敗退も多く、例年高い評価の割に苦しんでいるのは不思議なところです。
古くから野球どころとして知られる四国ですが、部員数に関しては全国でも下位に位置します。それでも本大会では近年だけでも2002年に明徳義塾(高知)が優勝、2004年に済美(愛媛)が準優勝を果たすなど、定期的に力のある学校を全国の舞台に送り込んでいます。
都道府県とプロ野球選手
高校野球の部員数では全国4位(8,388人)だった大阪ですが、現役のプロ野球選手の出身地(出生地)としては断トツの75人となっています。西武の大阪桐蔭トリオ(中村剛也、浅村栄斗、森友哉)に代表されるように、スター選手を次々と輩出する才能の宝庫です。高校レベルでも野球留学生として全国各地の強豪校へ進学するケースも多く見られ、プロ・アマを問わず日本球界の中心地といえます。
大阪に続く2番手は福岡で54人。高校野球の部員数では全国9位(6,792人)だったものの、数多くのプロ野球選手を輩出しています。九州内を中心として他県に進学する高校生も多く、質と量の豊富さで日本球界を支えている源泉のひとつです。
2つのグラフィックを見比べても明らかなように、基本的には高校野球の部員数の多い地域ほどプロ野球選手を輩出している傾向があります。それでも大分(高校:33位、プロ:15位)や福井(高校:44位、プロ:22位タイ)のように、”母数“が少ないにもかかわらず比較的多くのプロ野球選手を輩出している地域もあります。
地域と12球団
地域と12球団の関係を可視化してみると、各球団の志向がぼんやりと浮かび上がります。各球団ともやはりフランチャイズのある地域の選手を優先的に保有する傾向はありますが、フランチャイズ地域以外の選手を多く抱える日本ハムの様なチームもあります。巨人やヤクルトは関東の選手よりも関西や九州・沖縄の選手を獲得する傾向があり、その反対のオリックスの様なチームもあります。
最も多く地元の選手を抱えているのはソフトバンク。九州・沖縄出身の選手は28人を数え、優先的にこれらの選手を獲得している様がうかがえます。そもそもこの地域が全国屈指のプロ野球選手の供給地という背景もあり、地域密着の球団経営とあわせて一挙両得の感があります。中日やDeNAも近いスタンスを取っているようです。
地域とポジション
地域によって特定のポジションの選手を多く輩出している……ということはあるのでしょうか。これについては、残念ながらはっきりと目立った傾向を見いだすことはできませんでした。海外では、例えばプエルトリコは捕手の名産地として広く知られていますが、日本国内で区分けして見た場合にはそのような傾向は現れにくいようです。強いて言えば、関西の捕手や九州・沖縄の投手、関東の外野手の数が比較的多かったということは指摘できるかもしれません。
プロ野球選手とセカンドキャリア
プロ野球から高校野球、そして生まれ育った地域への還流も始まっています。昨年実施された現役若手選手へのアンケートにおいて、セカンドキャリアとして選手たちが最も関心を示したのが「高校野球の指導者」でした。母校や地域への恩返しをの気持ちを持っている選手も多く、トップレベルの舞台で培ってきた技術や経験を継承したい想いが強いようです。近年は「学生野球資格」回復(学生野球の指導資格)の制度も整えられ、こうした”故郷に戻る“選手たちの背中を後押ししています。
プロ野球選手たちもかつては高校球児でした。高校時代に大活躍したスタープレーヤーが、時を経て高校野球界に戻り、次のスターを育てる礎となる。そのような理想的なサイクルが、全国各地でゆっくりと回り始めています。