平均8.9年。プロ野球選手のタイム・リミット
2015年12月13日現在、戦力外通告を受けて来季の所属が決まっていない日本人選手は111人。今年は山本昌投手を筆頭に、多くのビッグネームがラストシーズンを迎えた特別な一年でもありました。40歳以上の選手は14人を数え、過去10年では古田敦也、佐々岡真司、吉井理人など8人が引退した2007年を上回ります。
若くしてプロ野球界を去る選手も多く、25歳以下で来季の契約が決まっていない選手は16名となっています。2008年にドラフト1位で入団した赤川克紀(前ヤクルト)、2011年の横浜ドラフト1位の北方悠誠(前ソフトバンク)の名もこのリストに含まれています。
過去10年間の引退選手のデータによると、プロ野球選手の平均在籍期間は8.9年(外国人選手、MLB移籍選手を除く)。この数字をどう感じるかは意見の分かれそうなところですが、総務省統計局の資料によるとタクシー運転手(9.3年)、調理師(9.0年)、プログラマー(7.9年)などが平均勤続年数の面で比較的近しい業種となっているようです。ちなみに当該資料に記載されている主要業種49種に当てはめてみると、プロ野球選手の8.9年は41番目の長さに当たります。
出典:総務省統計局ホームページ
「主要職種別平均年齢,勤続年数,実労働時間数と月間給与額」
4年目の引退が最多
プロ野球選手としてプレーできる年数は平均すると8.9年ですが、最も多く引退を迎える年数は4年目の87人となります。これは育成選手を含めて集計していることが影響していて、87人のうち26人が育成ドラフトによる指名入団者でした。ただし、育成選手を除いた集計でも最多となるのは5年目の選手(69人)で、プレー年数が大きく変わる訳ではありません。通常ドラフトでも育成ドラフトでも、4~5年目にプロ野球選手としてひとつの節目を迎えるとみなすことができます。
グラフの右端に位置する在籍32年は、もちろん山本昌。平均的な選手の3倍以上の長いプロ野球人生を送りました。最後の阪急戦士として知られた中嶋聡(29年)、プロ野球新記録の3021試合達成を引退の手土産とした谷繁元信(27年)なども、大変な長寿だったことがよく分かります。
長寿のキーワード
プロ野球選手とひとくくりに言っても、さまざまな選手がいます。ここでは長くプロ野球生活を続けている選手の特徴を探るために、「入団時ポジション」、「入団時年齢」、「ドラフト指名順位」の3つのカテゴリを設けて数字を比較しました。
平均して最も長くプロ野球を続けているポジションが捕手でした。ポジション柄育成に時間を要するため、捕手は長い目で見てもらいやすい側面があるのかもしれません。また、瞬発力を要する動きが比較的少なく、コミュニケーション能力等の非運動系の能力を重視されることなども捕手の長寿の要因になっていると考えられます。内野手もトップの捕手に迫る数字を残しています。これは内野手でプロ入りした選手は運動能力が高く、他のポジションへの転向の余地があることが影響しているとみられます。
入団時の年齢も重要です。20歳以下の若い選手は育成期間も長く、平均で10.2年の在籍年数となりました。社会人野球や独立リーグから入団する24歳以上の選手は平均6.9年と短く、即戦力として結果を残せないとプロ生活の終わりはすぐにやってきます。主に大学からの入団に当たる21~23歳はちょうど両者の間くらいに位置していて、このあたりは理解のしやすいところです。
指名時の順位でも大きく変わりました。上位の1~2位指名の選手は11.9年と非常に長く、6位以下の4年以上も長くプロ生活を過ごしています。やはり上位指名の選手はチームの期待値が高く、そして実際に活躍する確率も相対的に高いことから、このようにはっきりと数字に表れていることが推測できます。
最も長くプレーできる選手の条件は「入団時に捕手」、「20歳以下」、「指名順位1~2位」。過去10年の引退選手でこれに当てはまる選手は8人いて、平均在籍年数は16.0年でした。
入団後のリミット
入団に際しての諸条件は重要ですが、プロとして長くプレーできるかどうかは入団前から決定している訳ではありません。プロとして長期間在籍しているということは、つまりチームから次のシーズンも戦力として期待を受けている、という事実の積み重ねです。この期待は基本的に一軍における実績によって生まれ、一軍で結果を残すことによってのみこの期待に報いることができます。
4年目、5年目の選手の引退が多いという事実が示す通り、入団後の一定期間の内に結果を残せないと、プロとしての生活を続けられません。上に示した表は野手(試合数)と投手(投球回)、それぞれ5年目までの出場実績と在籍年数の関係をプロットしています。
データはいずれも正の相関を示しています。野手の相関係数が0.56、投手の値が0.54なので強力な相関とまでは言い切れませんが、おおむね若いうちに出場実績を積むほどプロ生活が延びています。5年目まで一軍でほとんどプレーしていないにもかかわらず大成した選手もゼロではありませんが、統計的に見てそうした選手は稀であることは間違いありません。
長くプレーしている選手は、5年目までにどれくらい一軍でプレーしているものなのでしょうか。在籍年数10年以上の選手を対象に、入団時の年齢別に出場実績の平均値を算出しました。
20歳以下の高卒クラスの選手は投手、野手とも1年目の出場は非常に少なく、5年目にかけてゆっくりと数字を伸ばしている様は共通しています。傾向が異なるのは24歳以上の社会人クラスの選手で、野手は1年目でも50試合未満の平均値に留まる一方、投手は1年目から平均75イニング以上と即戦力として機能している様が見てとれます。裏を返せば社会人クラスの投手で長いプロ生活を送ろうとするならば、1年目から結果を残せないと難しいと言えます。21~23歳の大卒クラスは投手、野手ともに即戦力の社会人クラスに近い動きを見せています。
10年以上在籍した選手による5年目までの平均通算実績は、野手で204試合、投手で243イニングでした。この10年間の引退選手のうち、この平均値を達成した野手の80%、投手は78%が10年以上プロ野球生活を送ることに成功しています。
9年で3億
長いプロ野球人生を全うできるのは一握りの選手ですが、それを実現できた暁には大きな見返りが待っています。現役プロ野球選手の平均通算年俸は1年目の879万円からスタートし、6年目には1億を突破(1億895万円)。プロ野球選手の在籍年数の平均値にほど近い9年目を終えると、通算で3億の大台に乗ります(3億3,226万円)。15年目以上の大ベテランとなると平均で12億6,527万円に達しています。
毎年100人近い選手が表舞台を去り、早ければ数年でプロとしての資格を失う過酷な競争社会。しかし才能と努力でこのレースを勝ち抜くことが出来れば、大きな成功もまた約束されています。