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コラム COLUMN

足が速い走者は打者を助けるのか タイムリーdata vol.67

新家 孝麿

 8日から野球の世界大会であるプレミア12が開催されます。日本はWBCで2連覇を達成するなど、国際舞台で強さを発揮しており期待十分です。
 日本の特徴として、スモールベースボールとも呼ばれる足を使った攻撃があります。2013年のWBCでは、盗塁が勝敗を大きく左右しただけに、今大会でも盗塁は試合のカギを握るでしょう。そこで今回のコラムでは、今季のNPBを参考に盗塁について分析してみたいと思います。


 右記はプレミア12に招集された日本代表選手の、今季の盗塁成功率を示しています。両リーグの盗塁王である山田哲人中島卓也の2人は、いずれも成功率8割以上と、高い数値をマークしました。山田は中心打者として、中島はつなぐ役割としてともにバッティングも注目されますが、盗塁面でも大きな期待が持てるでしょう。

盗塁が成功しやすい条件

 盗塁は成功すればチャンスが広がりますが、当然ながら失敗のリスクを伴う作戦です。成功するか否かを分ける要素としては、走者の足の速さ、投手のクイックスピード、捕手のスローイングなどさまざまですが、ここでは投手の投げる球種に注目したいと思います。

 投手が投げる球種によって盗塁成功率に違いが表れるかを見るために、球種を直球系、曲がる系、落ちる系の3タイプに分類してみました。すると、捕手に到達するのが速い直球系は、やはり成功させるのが難しいようです。反対に成功率が高いのは落ちる系で、これはボールがワンバウンドする場合も多く、捕手がスムーズなスローイング動作を行えないことが原因と考えられます。

 山田と中島を対象に、球種タイプ別の盗塁企図数を比較してみましょう。走者が球種を読むことは難しいので、偶然の要素は大きいと思われますが、中島は直球系での企図数が全体の38%と少なく、曲がる系や落ちる系のときに多くの盗塁を試みていたことが分かります。反対に山田は直球系が62%と高い数値でした。山田はその中で9割近い成功率を収めていたことは評価されるべきでしょう。

走者が打者に与える影響

 では足の速い走者は、打者のバッティングにも影響を与えるのでしょうか。“バッテリーは盗塁を警戒する場面で速球の割合が増える”という話をよく耳にします。そこで走者が山田、中島のときの、投手の球種別投球割合を見てみましょう。球種タイプの分類は先ほどと同様です。また、ここからは走者状況を一塁のみに絞りたいと思います。理由は三盗・本盗は機会数が少ないこと、一三塁の状況では捕手が二盗の走者を刺しにいかないケースがあるからです。

 結果を見ると、山田、中島ともに直球系の割合がNPB平均を上回る数値となっていました。主に彼らの後を打った畠山和洋田中賢介は、直球系を極端に苦手としているわけではなく、バッテリーは足の速い2人を警戒していたと予想できます。

 参考までに、一塁走者別に直球系を投じた割合をランキングしてみました。1位の中村悠平は、次打者が主に投手であったことが大きく影響していると考えられます。それ以外では2位から6位の選手が今季20盗塁以上と、足の速い選手がランクインしていました。もちろん打席に立つ打者にも左右されるデータですが、足の速い走者は相手バッテリーの配球を少なからず絞っているといえるでしょう。“バッテリーは盗塁を警戒する場面で速球の割合が増える”というセオリーはあながち間違っていないようです。

盗塁は何球目に試みるべきか

 打者への影響についてもう少し考えていきましょう。足の速い走者が一塁にいた場合、打者にとって少なからず配球が読めるという利点は分かりました。しかし、走者が盗塁するのを助けるために、せっかくの好球を振らないというケースもしばしば見受けられます。そこで盗塁成功までの過程から打者の打撃を見てみましょう。


 右の表は、走者が盗塁に要した投球数別に算出された、当該打席に立つ打者の打率です。初球に盗塁を成功させると、打者はその後の投球で打率.263を残しています。さらに見ていくと、5球目以降の成功では打者がほとんどヒットを打てていないことが分かります。やはり速いカウントからの盗塁成功が、打者の打撃を助けることになるようです。

 では、走者は何球目に盗塁するのが良いのでしょうか。データを見ると、4球目以降は成功率が6割前後と、3球目までに比べてぐっと低下しています。速いカウントから仕掛けるのは勇気が必要ですが、思い切ってスタートを切るのが得策といえるでしょう。打者の打率、走者の成功率の2つを加味すると、3球目までの盗塁がポイントになりそうです。


 そこで、今季の盗塁が多かった選手の3球目までに試みた割合とその成功率を出してみました。目を引くのは山田の成績です。走者一塁の場面で35回盗塁を試みましたが、その内89%に当たる31回を3球目までに走っていました。さらに成功率も唯一9割を超えています。一方の中島は成功率が8割弱とまずまずの数字。企図割合は69%と山田に比べるとやや物足りないですが、裏を返せば成功するのが難しい4球目以降に多くの盗塁を決めていたことが分かります。

 盗塁王に輝いた山田と中島の両者ですが、細かく分析すると盗塁したときの球種や、仕掛けるタイミングは異なっていたことが分かりました。プレミア12ではデータの少ない相手に2人はどのような盗塁をするのでしょうか。彼らが塁に出たときには、ぜひ注目してみてください。