0ボール2ストライクからの3球目は何を投げるべきか
.170
“.170”これは、0ボール2ストライクになった打席における打率だ。
2015年シーズン、NPB全体の打率は、.252で、0ボール2ストライクとなった場面に限ると.170、投手の打席を除いても.177であった。2球で追い込むと言うことは、それだけバッテリー有利になるということだ。
0ボール2ストライクからの3球目、「ここは、1球ボール球で様子を見て……。」とか、「このまま3球勝負で三振を狙え!」などを考えながら観戦している読者も多いかもしれない。3球目は何を投げられることが多いのか。そして、3球目は何を投げるべきなのか。今回は、0ボール2ストライクに追い込んだ直後の“3球目”に、スポットライトを当てて、見ていきたい。
3球目はどこに投げられる?
実際に、どのくらいの割合で2球で追い込んだという場面になるのか。計算してみると、この場面は、全打席数のうち約17%を占める。これは、1試合平均で約13回、1チーム当たり6回以上やってくるという数字だ。
筆者はこの数字を見た時、意外と多いという印象を持った。27個のアウトを取り合うスポーツの中で、この数字は決して無視できるものではないだろう。大きくバッテリー有利になるカウントだからこそ、確実に、そして可能な限り少ない球数で打者を仕留めたいところである。
では、実際に2球で追い込んだ後の3球目がどこに投じられたか、打者の左右と、ストレート、変化球ごとにゾーンを500分割しヒートマップで示した。対左打者と対右打者で綺麗に左右対称となっている。これを見ると、ストレートはアウトコースや高めへのボールゾーンに、変化球はアウトコースや低めへのボールゾーンに良く投球されていることが分かる。そして、ストライクゾーンやインコースへのボールゾーンにはあまり投球されていないことも分かる。
端的に言えば、赤色に近いゾーンがセオリー通りのボール、緑色に近いゾーンが意外性のあるボールということになる。プロ野球をよく見る読者からすれば、イメージ通りといったところかもしれない。では、実際にセオリー通りのボールは、より打ち取る確率が上がるのか。セオリー通りのボールに効果はあるのか。データを使って見ていこう。
3球目に何を投げる?
ここからは投手の打席を除外した数値で述べていく。
2015年シーズン、2球で追い込んだという場面は、10557回あり、次の3球目は約20%がストライクゾーンに、約80%がボールゾーンに投じられた。
3球目がストライクゾーンに投じられた割合を“ストライクゾーン割合”と命名しよう。
実はこの数字、チームによってバラつきがある。チーム別に見てみると、楽天と広島が23.4%で最もストライクゾーン割合が高く、巨人が16.4%と最も低い。
配球をリードする捕手と一緒に見ていく。楽天はレギュラーの嶋が23%、加えて2番手捕手の小関が特に高く28%であった。広島は會澤と石原が正捕手の座を分け合ったが、會澤が25%、石原が22%とどちらも平均を上回っている。一方巨人は、FA移籍1年目の相川は23%と平均を上回っているが、生え抜きの小林、阿部、加藤が軒並み平均を大きく下回っており、12球団で最も低いストライクゾーン割合の要因となっている。
このストライクゾーン割合は、投じられた結果を集計している。そのため、実際に捕手がストライクを要求していたとしても、ボールゾーンに投球されれば、ボールにカウントされ割合は下がるため、「楽天・嶋は23%の確率でストライクを要求する。」とはならない。ただ、比較的母数の大きな数値であるため、一定の傾向はあるであろう。
上記のヒートマップと一緒に見てみると、このストライクゾーン割合が高いと意外性のある強気の捕手、低いとセオリー通りの堅実な捕手と言えるのかもしれない。
0ボール2ストライクからの3球目は、ストライクゾーンとボールゾーンどちらに投球したほうが、より打ち取りやすいのか。3球目をストライクゾーンに投じた場合と、ボールゾーンに投じた場合の、その“打席結果”の内訳を示した。
これを見ると、打率はほぼ変わらない。ただし、ボールゾーンに投じると、四死球のリスクは2倍以上高くなり、出塁率が2分近く上昇する。また、当然ながら球数も多く要すことになる。
「ストライク?or ボール?」の答えとしては、この2択だけでは、「ほとんど変わらないが、3球目はストライクゾーンに投げたほうが、球数も少ないし出塁もより防ぐことができる。」だ。
それでは、ストライクゾーンとボールゾーンだけでなく、ボールゾーンのどこに外したかまで加えて見ていこう。上記のヒートマップの通り、ストレートと変化球では投じられるコースが異なることを考慮して、以下の7種類に分類した。
ストレートは、ストライクゾーンへのFSに加え、俗に「外に1球外す」と言われる球が該当するFB1、「高めへの釣り球」が該当するFB2、その他のFB3、4種類に分類した。変化球はストライクゾーンへのBSと、「アウトローへの誘い球」が該当するBB1、その他のBB2だ。インコースや高めへの変化球などをその他に分類したのは、意図して投じられることが少ないと判断したためだ。
それぞれ可視化すると以下のようになる。
外に外すストレートは無意味。変化球はアウトローへ外せ!
実際にそれぞれが投じられた“3球目時点での結果”を表に示す。
まずは、3球勝負でストライクゾーンに投じた場合である、ストレートのFSと変化球のBSを見てみよう。カットされる割合が40%程度あるが、言い方を変えれば、60%以上の確率で勝負が付くということになる。そしてそのうちの80%以上の確率でアウトとなる。異なるのは、凡打と三振の割合で、ストレートのほうが3球三振の割合が高く、変化球のほうが凡打で打ち取る割合が高いという点だ。
ボールを投じた場合はどうか。ヒートマップで広域に赤く塗られていたアウトコースのストレートFB1は実に90%近くが見極められており、三振やファウルを打たせることも難しいようである。一方で、高めのストレートFB2は見極められる割合が約54%と、FB1やFB3などその他のボールゾーンに比べるとかなり打者が手を出しやすい球となっている。アウトコース低めへの変化球BB1は約67%が見極められているが、空振り三振を取る割合がボール球の中では最も高く、誘い球の文字通り誘われるケースが多い。
3球目だけを見た場合、セオリー通りに投じたはずのアウトコースへのストレートFB1は、ほとんど意味のない球になっているようだ。一方で、もう一つのセオリーである、アウトローへの変化球BB1は誘い球として一定の効果が見て取れる。
次に3球目にそれぞれを投じた後の、“打席結果”を見てみよう。あらかじめ申し上げておくと、ここで述べる分類は、あくまで“3球目”の分類であり、必ずしも結果球となったボールを指すわけではない。そのため、打席結果が四球でも、3球目にストライクゾーンにストレートを投じていればFSとして言及される。
上でストライクゾーンとボールゾーンの2択に分けた際に四死球と球数の話をしたが、やはり3球目にボールゾーンに投じた結果、与四球の割合や球数がかえって良くなるというケースはこの分類では存在しなかった。
3球目時点では効果が見えなかったアウトコースへのストレートFB1は、やはり打率や出塁率、長打率が高く、球数も最も多い5.13球要すなど、効果的な結果を得る布石とはなっていないようであった。
高めのボールゾーンは長打を打たれるリスクが高まると言われることがあるが、FB2の長打率を見ると他のボールゾーンより低く抑えられていることも分かった。ストライクゾーンへのストレートFSは三振の割合が高く、効果的な配球であると見て取れる。それでもなおストレートでボール球を投じるのであれば、痛打されるリスクを必要以上に恐れてアウトコースに外すよりも、高めに外すボールを選択したほうが、ここで示した指標の観点では賢明と言えそうだ。
ストライクゾーンへの変化球BSのみ、他の分類と内訳が異なり、三振を奪う割合が少ない一方で凡打の割合が高い構成となっている。また、打率と長打率が最も高いのもBSだ。
3球目の時点で効果が見えたアウトコース低めに外した変化球BB1は、ボールゾーンに投じた中では、球数を最も抑えられており、打率や出塁率が低く抑えられている。
ストライクゾーンに投げる場合は、ストレートを。変化球を投げる場合は、アウトコース低めへのボール球を投げるのが、効果的な配球と言えそうだ。
野球には、セオリーに反したデータが示されることがある。
0ボール2ストライクからの3球目にアウトコースへのストレートで1球外すという投球は、実際には効果的な配球ではなく、打者を有利にし、球数の増加につながってしまうという結果となった。
データでは打者心理まで読み解くことができないが、大半がアウトコースへのストレートであるがゆえに、ストライクゾーンへの投球が逆を付いた形にとなって、より良い効果を生んでいる可能性もある。しかし、もし意図なく機械的にセオリーに従っているということであれば、そのまま3球勝負に行ったほうが良さそうだ。