けん制数の少ない藤浪は、盗塁されやすいのか?
「けん制」と「盗塁」の関係を探る
※文章、表中の数字はすべて8月27日時点
シーズン佳境を迎えた今、1点を争う競った展開の試合が多くなってきました。細かな戦術が勝負を左右する中、ここぞの場面での盗塁も一つの重要な作戦でしょう。
そこで注目したいのは、その盗塁を守備側がいかに防ぐか。捕手の肩の強さはもちろん、投手の「けん制」も重要なプレーです。実際にけん制が多いことで、走者に盗塁されにくくなっているのか。けん制は、試合中も目にする機会が多いですが、数字で振り返る機会は少ないのではないでしょうか。今回はけん制について触れてみたいと思います。
今季最多はスタンリッジの169回!
今季のけん制球の数(あくまで投げた数で、偽投やプレートを外したなどは含まず)を調べると、ここまで最も多く投げている投手はスタンリッジで169球。100球を超えているのはスタンリッジだけで、2位・メンドーサの約1.7倍の数字となっています。スタンリッジは3年連続でけん制球の数が100を超えており、昨季もNPBで2番目に多い155球を投じるなど、もともとランナーを気にして、けん制を多く投げている投手のようです。
一口に「169回けん制している」といっても、あまりピンとこない人がいるかもしれません。そもそもけん制はランナーが出ないと起こらない事象なので、ランナーを出す機会の多さも影響します。そこで「走者一塁の場面」に限定して話を進めたいと思います。そして、走者一塁の場面の数も差があるので、「走者一塁の場面でどれだけけん制をおこなったか」にスポットを当てます。つまり、ホームへ送球する(投球)間に、どれだけ一塁に送球する(けん制)かの頻度となります。
3球投げる間に、けん制1球!
年度別にスタンリッジのけん制頻度を表したのが上図です。2014年のデータを見ると、「走者一塁の場面では2.8球投げる間に、けん制球を1球投げる」という計算。つまり3球投げる間に、少なくとも1回は一塁にけん制球を投げていることで、球界では断トツにけん制を投げている投手です。スタンリッジは毎年NPB平均より少ない数値、つまり平均的な投手よりもけん制を多くしています。特に13、14年はリーグで最も頻度が多い投手となっています。これほどまでけん制が多いスタンリッジ。けん制を投げることでの効果は出ているのでしょうか。
盗塁を企図された数は?
走者一塁の場面でどれだけ走られたか、を調べたのが上図です。14年のデータを見ると、「走者一塁の場面で、走者に走られたのは、21.0打席に1回」という計算です。この数値が大きければ大きいほど走られていない、ということになります。12、13年はNPB平均程度の回数でしたが、今季はNPB平均よりも走られていません。多くのけん制を投げることで、走者を一塁にくぎ付けにできているようです。
今季のスタンリッジに関しては走られている数が少ないので、けん制を多く投げている効果が出ているようです。では他の投手にも「けん制が多いほど、走られる数が少ない」という仮説が当てはまるのでしょうか。他の投手のデータも見てみましょう。
けん制と走られた数は関係があるのか?
今季70イニング以上投げている投手、55人のデータを上図にまとめてみました。縦軸がけん制頻度で、NPB平均は6.2。下に行くほどけん制が多い、ということになります。横軸は盗塁を企図された頻度で、NPB平均は10.7。右に行くほど走られていない、ということになります。左下に多くの投手が集まっていることが分かり、何らかの関係性があることも見えてきます。スタンリッジのように「けん制が多いほど、走られる数が少ない」に該当する選手もいますが、けん制の多い3位・涌井、4位・菊池は走られる回数も多い(上図ではどこに名前があるか確認することは難しいかもしれませんが)など、どうやら明らかな関係性は見えないようです。
さらに気になる投手を何人か取り上げてみましょう。右下に飛び出ている東明大貴はスタンリッジに似たタイプで、けん制頻度が多いですが、今季はまだ1度しか走られていません。けん制が効果を発揮している一人かもしれません。また内海哲也は間合いの取り方がうまく、左投手ということもあり走られにくい投手の一人。けん制も平均よりは少ないです。
そして特筆すべきは久保康友でしょう。けん制頻度は上記にまとめた選手の中で5番目に少ないですが、走られた数も2番目の少なさ。「けん制が少ないのに、走られていない」のです。それを解明するのが、彼の代名詞といえるクイックモーション。つまりクイックがうまいことで走られることも少なければ、けん制を投げる機会も少ないということとなります。投げる機会が少ないというよりは、「投げる必要がない」とまでいっても良いかもしれません。
さらにもう一人注目する選手が、左上に飛び出ている藤浪晋太郎です。
32球に1回しかない藤浪のけん制
藤浪の今季のけん制数は13回で、けん制頻度は32.0。2位の美馬に大きく差をつけ、球界で最もけん制の少ない投手となっています。しかし久保のように走られた数が少ないというわけではなく、盗塁を企図された頻度は11.8と平均レベル。けん制が少ないですが、多く走られている、というわけではなさそうです。藤浪の場合はけん制自体を苦手としているようで、今季一塁へけん制した13球のうちでも、2球が悪送球になっています。上記のデータは8月27日時点のものですが、同28日の巨人戦でもけん制は一球もありませんでした。けん制を「あえて」投げていない、とも思われます。
今回は「けん制が多いほど、走られる数が少ないのか」という仮説を立てて、話を進めていきましたが、実際に「けん制」と「走られた数」に関係があるとはいえませんでした。しかし、特徴を持った投手を見つけられたことで、非常に興味深い結果が出たと思います。個々の対戦でもある、「盗塁」「けん制」の駆け引きも重要となってくるこれからのシーズン。投手が本塁へ投げるボールだけでなく、一塁への投球へ関心を持っても面白いかもしれません。