「ホームランテラス」だけでは、柳田悠岐の30本塁打を説明できない
パ・リーグ制覇に向けて快走するチームの中で、柳田悠岐の存在感が抜けています。昨年の活躍ですっかりソフトバンクの中心選手となりましたが、今年の活躍はそれを上回るものがあります。リーグで13年ぶりとなるトリプルスリーもほとんど手中に収め、このままソフトバンクがペナントを制すればリーグMVP候補の最右翼となるでしょう。
昨年から大きく変化したスタッツとして、本塁打の増加が目に留まります。以前から長打力の割には本塁打が少ないとされていた柳田でしたが、今年は一気に30本塁打に到達。やはり、今年から新たに本拠地に設置された「ホームランテラス」のおかげなのでしょうか?
それほど得をしていない?
実は、柳田の「テラス弾」はここまで4本にとどまっています。柳田のヤフオクドームでの一発は基本的にスタンドまで届く大きな当たりが多く、30本塁打到達にいくらかの貢献はあるにせよ、このゾーンで本数を多く稼いだ訳ではありませんでした。
チームメートの松田宣浩や李大浩がヤフオクドームで記録した本塁打の半分程度をテラスに放っている現状を思えば、3割(4本/13本)にとどまる柳田のテラス割合は少なく感じられます。今年のヤフオクドームで記録されたテラスへの本塁打は67本で、全体(132本)の約51%を占めています。つまり松田や李が“得をしている”というよりも、柳田がさほど“得をしていない”と表現する方が適切と言えそうです。
柳田はなかなか打球が上がらないタイプの打者で、ボールを真芯で捉えてもトップスピンがかかる結果、ラインドライブとなってスタンドインに至らない、という傾向が昨年から見られていました。また、似たような理由から打球がゴロとなる確率も高く、相対的にフライ打球の少ない打者となっていました。1月に掲載したBaseball LABのコラムでもその点に言及していて、打球傾向からホームランテラスの恩恵を受けにくい打者として柳田の名前を挙げています。実際にはテラスに4本放っているので恩恵をまったく受けていない訳ではありませんが、松田や李よりもその数が少ないのは不自然なことではありません。
本質はグラウンドボールヒッター
柳田の打球傾向は今年も大きな変化は認められません。バントを除いた打球がゴロとなる割合は57%と過半数を占め、リーグ平均の47%を上回る値となっています。今年の柳田も平均的な打者よりもゴロの打球を打つ確率の高いグラウンドボールヒッターであり、本塁打、ないし長打を期待される打者としては、本来であれば不利な立場にあるはずです。
例えば、現在パ・リーグの本塁打ランキングトップの中村剛也(西武)のゴロ割合は35%。あるいは中田翔(日本ハム)の35%、松田の38%、李の39%という数字を並べてみても、柳田の打球の特異性が理解できると思います。
本人も自身の打球特性をはっきりと認識している様子で、報道によると、昨年のオフから今年のオープン戦にかけてスイングの改造を試みていたようです。しかし前出の通り、打球の内訳を見る限りにおいて目立った変化はありません。
打者個人のゴロ割合はとても再現性の高いスタッツで、2010年から2015年の年度間の相関係数は0.80と強い相関を示しています(2年連続でバントを除く100打球以上の打者を対象、511サンプル)。この数字をもって意図的に打球性質を変えられない根拠とすることはできませんが、人並み以上にゴロを打つ、フライを打つというスキルは、一定以上選手個々の本質に根ざしたものであると考えられます。
昨年より「飛ぶ」フライ
それでは、なぜ柳田はゴロを量産しながら30本塁打を放つことができたのでしょうか。2年間それぞれのフライ打球のデータに着目してみると、とても面白いことが分かりました。柳田のフライを打つ頻度自体に大きな変化はないものの、打球自体の飛距離が全体的に底上げされているのです。特にレフトから左中間にかけてのフライ打球がよく伸びていて、フェンスオーバーする打球が明らかに増えていました。今年は柵を越えない打球でもフェンスに近い位置まで飛ばす頻度が上がっていて、外野手の定位置あたりの打球がまばらとなっていることが打球プロットから読み取れます。
外野まで飛んだフライ性の打球がフェンスを越えた割合を示すHR/OFという指標では、昨年の13.8%から25.0%まで上昇しました。両リーグを合わせて10本塁打以上記録している打者の中で、20%を超えているのは柳田を除いて中村剛也(21.7%)とメヒア(20.2%)の2人しかいません。
柳田が今季30本塁打を達成できたのは、数少ないフライ性の打球をとても高い頻度でオーバーフェンスさせていたから、ということになります。過度にホームランテラスに助けられた訳ではなく、弾道が上がった訳でもありませんでした。
ピークは今か未来か
もし柳田が生まれついてのフライボールヒッターだったら……と考えたくもなってしまいますが、打者としての特性を維持したまま40本、50本と本塁打の数を伸ばしていこうとするならば、フライ打球の打ち損じを減らし、より確実に遠くへ打球を飛ばす必要があります。現時点でも日本人離れした長打力を持つ柳田ですが、さらなるパワーアップは現実的に可能なのでしょうか。
ここで過去のスラッガーたちのパワーと年齢の関係を確認してみましょう。1950年から2015年の間に、キャリアで100本塁打以上を記録した打者(外国人選手を除く)は221人います。彼らの年齢別の成績を合算し、導き出したIso(長打率-打率)が上のグラフです。一見して明らかな通り、長打力のピークは20代の後半に訪れています。キャリアハイのIsoを記録した年齢は28歳が最多で31人でした。今年の10月に27歳の誕生日を迎える柳田ですが、統計的に見た場合、現在から来年にかけて長打力のピークが訪れる可能性があります。
過去のトリプルスリー達成者のIsoの動きを見ると、簑田浩二や金本知憲のように30代に入ってからピークを迎えるパターンもあります。特殊なケースを持ち出して将来を推し量るのはあまり適切な行為とは言えませんが、従来の常識には収まらない柳田のことです。統計の値からは想像も付かない成長を遂げる可能性もまた、否定できません。