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コラム COLUMN

菊池涼介は球界屈指のピボットマンでもある

山田 隼哉

 皆さんは、野球における「ピボットマン」という言葉をご存知でしょうか。

 ピボットマンとは、内野ゴロによるダブルプレーの際、打球を処理した野手からの送球を受けて、一塁へとボールを転送する“リレー役”の選手のことを指します。すなわち、二塁手と遊撃手のことです。ただし、どちらかと言うと、「旋回する人」という意味から、遊撃手よりも体の向きを変えながら送球することが多い二塁手を主に指すようです。

ピボットマンはスピードが命

 語呂の良さも含め、この何ともしゃれた呼び名を考えた人のネーミングセンスには頭が下がりますが、今回のコラムはそのピボットマン(二塁手)がテーマです。データを用いて、各選手のピボットマンとしての力量を推測してみましょう。

 考えてみても分かる通り、体の向きを変えながら素早く送球するということは、非常に高い技術を必要とします。瞬発力や体幹の強さ、ランナーのスライディングをよける判断力も求められるでしょう。実際、高校生とプロの守備練習などを見比べても、やはりピボットマンの「捕ってから投げるまでの速さ」にはレベルの差を感じることが多々あります。

 内野手がゴロの打球を捕球してからダブルプレーを取れるかどうかは、バッターランナーとの「ヨーイ、ドン」の競争で決まることがほとんどなので、その中でピボットマンは重要な役割を担います。いかに速く一塁へボールを転送するか、ここがピボットマンの腕の見せ所です。もちろん、第一に打球を処理した野手の動きやバッターランナーの走力、打球の方向、強さなどの影響で、ピボットマンの力が及ぶ以前に勝負が決まってしまう場合もありますが、ひとまずそのあたりは無視して、次のようなデータを出してみました。

守備範囲だけではない菊池のすごさ

 このデータは、サードゴロまたはショートゴロの打球をそれぞれの野手が処理し、二塁へ送球、一塁ランナーがアウトとなり、その後、併殺を狙うべく、二塁手が一塁へ送球した場合の併殺成功率を示したものです。二塁手が一塁へ送球しなかったケースは除いています。また、表の右側には内訳として、サードゴロのケース(5-4-3)とショートゴロのケース(6-4-3)を分けて示しています。最下行にあるNPB全体の数値を見ても分かる通り、当然ながら二塁までの距離が短いショートゴロの方が高い併殺成功率となっています。

 最近3シーズン、800イニング以上の選手を対象にした結果では、広島・菊池涼介が最も高い併殺成功率を残していました。彼は球界屈指の広い守備範囲を誇る二塁手としてすでにその地位を築いていますが、このデータを見る限りは、ピボットマンとしても高い能力を備えていると推測できます。派手なフィールディングばかりに目を奪われがちですが、一見地味なピボットプレーにも、菊池の隠れた見どころがあるようです。

 一方で、最も低い数値となってしまったのが日本ハム・西川遥輝です。昨シーズンまでは二塁手としての出場が多かった西川ですが、今シーズンは田中賢介の加入もあり、ほとんどの試合にレフトで起用されています。この併殺成功率の低さが物語る通り、内野手に求められる素早い送球がもともとあまり得意ではなかったとしたら、外野へのコンバートは適材適所の判断だったと言えるかもしれません。

 とは言っても、これらの数値には、前述したようなほかの要因が働いている可能性があり、必ずしもピボットマン自身の能力が反映された結果とは言い切れません。そこで、打球の強さについて、条件を絞り込んだのが次のデータです。

クルーズの驚くべきスナップスロー

 一定の基準にしたがって打球の強さをランク付けしたときに、「強い打球」でもなく「弱い打球」でもないものを「普通の打球」と評価し、その打球に限定した場合の併殺成功率を求めました。これにより、選手個々のサンプル内に占める打球の強さの割合はある程度平等になっているはずです(もっとも、サンプルサイズ自体は小さくなっているので、そのぶんほかの要因による揺らぎが生まれやすくなっている可能性は否定できません)。ちなみに、NPB全体を対象にした打球の強さごとの併殺成功率は、強い打球=85.2%、普通の打球=74.4%、弱い打球=50.3%でした。

 このデータでも、菊池の併殺成功率は高い数値となっていました。前のデータにおいても、強い打球が極端に多いために併殺成功率が高くなっていたわけではないようです。また、ここで菊池よりも高い数値を示しているのがロッテのクルーズです。特に、サードゴロのケースでは12回中11回と、非常に高い割合で併殺を成功させていました。確かに、実際に彼のプレーを見ていると、ダブルプレーを成功させる際の送球の速さには驚かされることがあります。ラテン系の選手特有のスナップスローで、あっという間にボールが手から離れていくのです。これは、日本人選手にはなかなかまねができないプレーでしょう。

 「普通の打球」に限定したデータは、全体的に見ても、打球の強さを絞り込む前のデータとおおむね近しい結果となりましたが、両方を合わせて見ることで、各選手のピボットマンとしての力量を何となく把握することができます。しかし、依然として打球を処理した野手の動きやバッターランナーの走力などの影響は排除できていません。特に、打球を処理した野手の影響は無視しづらい部分です。例えば、同じチームに守備力の高い(スローイングが速い)三塁手がいた場合、ピボットマンとしての二塁手はその恩恵を継続的に受けるため、併殺成功率が高くなる可能性があります。もちろん、その逆のケースも考えられます。菊池や西川、クルーズもそうした影響を受けていないとは限りません。

タイム計測でピボットマンの真価を問う

 そこで、この問題をできるだけ解消すべく、一部の選手に限り、送球を受けてから一塁にボールを転送するまでのタイムを実際に測ってみました。いわばピボットマンの責任範囲だけを切り出して計測するわけですから、打球を処理した野手やバッターランナーの走力の影響は基本的に受けません。今回は独断と偏見で、西川を含む6名の二塁手をピックアップし、タイム計測を行いました。

 計測方法は、二塁手がほかの野手からの送球をキャッチした瞬間を始点とし、次に二塁手の送球が一塁手のミットに収まった瞬間を終点とします。この方法で、選手ひとりにつき現在からの直近40プレーをサンプルとして採取・計測し、そのうちタイムが速かった上位20プレーの平均タイムを最終データとしました。全プレーの平均ではなく上位20プレーの平均とした理由は、ピボットマンが「余裕で併殺を取れる」と判断してプレーのスピードを緩めたケースなどを客観的に対象から外すためです。

疑いを一掃する圧倒的な速さ

 結果はこのようになりました。併殺成功率でも上位の数値を残した菊池が、6人の中で圧倒的に速いタイムを記録しているのが分かります。もはや、彼は文句なしにピボットマンとしての能力が高いと言っていいでしょう。今シーズンの広島には、ジョンソンや黒田博樹といったゴロを打たせるのが得意な投手が多く在籍しているため、その能力を生かす機会も存分にあると考えられます。

 また、打球の強さを絞った併殺成功率で最も高い数値を残したクルーズも、6人の中では比較的速いタイムを記録しています。捕ってから投げるまでのスピードは菊池よりも速いように感じられましたが、手首だけで投げることが多いため、そのぶんボールにスピードがなく、投げてから一塁に届くまでの時間で菊池との差が生まれていたのかもしれません。

 以下、山田から西川まで、おおむね併殺成功率の高さと似た傾向が出ています。やはり、一塁転送までのタイムが併殺を成功させる確率にも強く影響するということのようです。裏を返せば、今回使用した併殺成功率というデータは、3シーズン分くらいのサンプルを取れば、実際にタイムを測るのと近いレベルで、ピボットマンの力量を測ることができるものだと考えられます。この発見は今後、私たちが守備力の適正な評価方法を考えていく中でも生かすことができそうです。

優秀なピボットマンはチームを救う…?

 ダブルプレーは、例えば一塁ランナーのみの状況であれば、アウトカウントを2つ増やし、なおかつランナーを塁上から消し去る必殺技のようなプレーです。守備側のチームが失点を防ごうとする中でその効果は絶大と言えますし、時には勝敗を大きく左右するビッグプレーにもなります。

 もちろん、そこには内野ゴロを打たせる投手(またはバッテリー)がいて、打球を処理する野手がいるわけですが、チームの戦法として効率的に併殺を稼ごうとするなら、優秀なピボットマンの存在はひとつのカギと言えるかもしれません。また、西川の例のように、選手のポジション適性を考える際にも、ピボットプレーのうまさは有益な情報であるように思えます。シチュエーションの限られる細かなプレーではありますが、何かのヒントになるよう、目を向けていくことが重要なのだと思います。