CS直前!○○に抜群の強さを見せる広島
2位を逃すも13年ぶりの勝ち越し
日本球界にも、ポストシーズンの時期がやって来ました。明日から始まるクライマックスシリーズ(以下CS)には、一体どんなドラマが待っているのでしょうか。ドラマを楽しむ前に、レギュラーシーズンの戦いを少しだけおさらいしておきましょう。今回ピックアップするのは、2年連続のCS進出を果たした広島東洋カープです。
昨シーズンは69勝72敗3分けと負け越しながら3位に入った広島ですが、今シーズンは74勝68敗2分けとしっかり勝ち越してきました。2位をかけた最終戦に敗れ、本拠地でのCS開催を逃してしまったことは非常に悔まれますが、ここ数年で着実に勝てるチームを作り上げた球団の努力は、素直に評価すべきでしょう。
長年の課題だった得点力不足を解消
さて、今シーズンの広島が勝ち越せた要因を冷静に分析してみると、やはり打線の働きによるところが大きいようです。昨シーズンまでの広島は、投手陣を整備することに関してはある程度成果を上げることができていましたが、打線は積年の課題となっていました。1試合あたりの得点は2004年を最後にリーグ平均以下が続き、慢性的な得点力不足に陥っていたのです。外国人打者の補強も積極的に行いましたが、打線全体でプラスに転じるほどには至らず、結局投手陣に頼らざるを得ないのがここ数年の広島の戦い方だったと言えます。
でも、今シーズンは違いました。丸やエルドレッド、菊池らがよく打ち、1試合あたりの得点で10年ぶりにリーグ平均を上回ったのです。もちろん、得点だけでシーズンの順位が決まるわけではありませんが、すでにディフェンス面で一定の力を備えていた広島にとって、打線の“目覚め”は待ち望んだ結果だったと言えるでしょう。
左投手に対して抜群の強さを発揮
では、今シーズンの広島打線は具体的にどこが優れていたのかを見てみましょう。目を引くのは、左投手に対する抜群の強さです。上のグラフは、セ・リーグ各チームの対左投手・対右投手それぞれのOPSを並べたものですが、広島は左投手に対して非常に高い数値(.814)を残していることが分かります。これは、昨シーズンの広島には見られなかった傾向です。
右投手に対しても比較的高い数値(.731)を残していますが、左右でこれだけ差が開くチームはなかなかありません。本塁打を打つ割合でも、今シーズンの広島は左投手に対しては約28打数に1本、右投手に対しては約34打数に1本という数字でした。左投手に対する打力の高さが、広島の得点力アップにつながっていたのです。
ほぼ全員がサウスポーキラー
チーム全体では少しイメージが湧きづらいかもしれないので、今度は選手ごとに見てみましょう。上の表は、今シーズンの広島で対左投手・対右投手それぞれ50打席以上に立った選手を対象にしたデータです。主力選手だけでなく、ほとんどの選手が左投手を得意にしていることが分かります。特にエルドレッド、ロサリオ、會澤は1.000を超えるOPSを残していることから、左投手に対して圧倒的な打力を誇っていたと言えるでしょう。
もっとも、會澤に関しては昨シーズンまでむしろ、左投手を苦手としていました。2009年から2013年までの5シーズンで、彼が左投手からマークしたOPSは.479(対右投手は.518)で、本塁打はゼロ(対右投手は4本)。ストレートに力負けすることが多く、期待された打力を発揮できずにいました。それが、今シーズンになって見事に改善されたのです。左投手が投じたストレートに対し、今シーズンの會澤は26打数12安打、4本塁打と見違えるような数字を残しました。
相性の悪い選手を起用しない
また、一部の選手の起用法が徹底されている点も、広島打線の左投手に対する強さを支えています。この3選手は、対右投手の打席数に比べ、対左投手の打席数が極端に少ない選手、つまり“対右専門”という形で起用されている選手です。彼らはいずれも左打ちで、過去の実績からして、あまり左投手を得意としていません。
おそらく、こうした選手を左投手との対戦から極力遠ざけることで、ロスを減らし、効率的に攻撃を行おうというのが広島の首脳陣の意図です。シンプルではありますが、持ち合わせている戦力を最大限に生かすという点では、理にかなった戦術と言えるのではないでしょうか。
CSでもカギを握る相手投手の左右
広島打線が左投手に強いことは、チームの試合結果にも表れています。今シーズンの広島は、相手チームの先発投手が右投手の場合、40勝47敗2分けで勝率.460でしたが、左投手の場合は34勝21敗0分けで勝率.618でした。もちろん、右投手を打ち崩しながら負けた試合もあれば、左投手に抑え込まれながら勝った試合もあるとは思いますが、これだけ勝率の差があることを考えると、やはり相手投手の左右が勝敗にも影響していると言えそうです。
CSの戦いにおいても、広島にとって相手チームの先発投手が左投手なのか右投手なのかは、重要な要素となるかもしれません。ファーストステージで対戦する阪神は、第1戦の先発が右のメッセンジャー、第2戦が左の能見、第3戦が右の藤浪と予想されています。第1戦と第3戦では丸、天谷といった右投手に強い選手(天谷は対右投手OPS.905)がポイントゲッターとなりますが、打線全体でどこまでパフォーマンスを発揮できるか注目です。
当然、投手個人との相性もありますし、短期決戦のため何が起こるかは分かりません。ですが、今回紹介したデータが、ドラマをよりいっそう楽しく演出してくれるものとなれば何よりです。以前アップしたコラムでは、投手の対左右打者別のピッチングを評価したデータも紹介しています。ぜひ、熱いポストシーズン観戦の参考としてみてはいかがでしょうか。