投手力、守備力をリーグ平均と比較 ~FIPとDERで2014年の阪神タイガースを見ると!?~
リーグの状況をグラフで見る
※データはすべて8月7日終了時点
Baseball LABではデータを数字のまま表現するのではなく、グラフ化して表現したり、言葉に変換して表現したりする試みを行っています。
トップページから「セ・パ」をクリックするとリーグごとの情報を見ることができますが、この中の「リーグマッピング」もそのひとつ。1試合平均得失点、長打率・出塁率、FIP・DERのそれぞれについて、各チームがリーグ内でどのようなポジションとなっているかを可視化しています。
セ・リーグの1試合平均得失点の例を見てみると、平均得点は右から順に大きいので、ヤクルト→広島→阪神→中日→DeNA→巨人、平均失点は上から順に少ないので、巨人→広島→中日→阪神→DeNA→ヤクルトとなっています。
8月7日終了時点では、セ・リーグ1位の巨人、2位の阪神がともに平均得点より平均失点が大きいという珍しい現象が起きていますね。また、ヤクルトは他の5球団と比べてかなり右下に位置しており、平均得点こそトップですが、失点の多さも断トツ。最下位となっている理由がここにあるのは明らかです。
このように、いつも見慣れたデータでも、グラフで可視化することによって、より有益な情報が見えてくるかと思います。
FIPとDERで失点の要素を掘り下げると?
それでは、失点の要素をもう少しを掘り下げてみましょう。上の図はFIPとDERのデータを表したグラフです。
FIPとは奪三振、与四死球、被本塁打という明らかに投手の責任だと考えられるスタッツを基にしており、「投手力」を簡易的に表した指標です。計算式は下記となります。
FIP=(13×被本塁打+3×(与四球+与死球-故意四球)-2×奪三振)÷(投球回数)+補正値
※「補正値」は普段見慣れている投手の指標(防御率)のような数値に変換するために加えます。
一方、DERは「守備力」を簡易的に表した指標で、計算式は下記となります。
DER=(打席-被安打-与四球-与死球-奪三振-失策)÷(打席-被本塁打-与四球-与死球-奪三振)
分子はおおよそのアウト数(奪三振は除く)を表し、分母はフィールド内に飛んだすべての打球を表しています。つまり、フィールド内に飛んだ打球のうち何割をアウトにできたかを示す式になっています。
2014年セ・リーグのFIPとDERを見ると、FIPは阪神→巨人→広島→中日→DeNA→ヤクルトの順、DERは中日→巨人→広島→ヤクルト→阪神→DeNAの順になっていることが分かります。
FIPとDERをリーグ平均と比較する
リーグページに掲載しているのはFIPとDERの実数ですが、これをリーグ平均との比で表現してみると、上の図のようになります。この場合は1が基準(リーグ平均と同じ数値)となり、リーグ平均よりも良い数値であれば1を超え、悪ければ1を下回る数値になります。
図中にも記載してありますが、リーグ内での相対的な投手力、守備力を大まかに区分するとこのようになります。
右上=投手力、守備力ともに高い(巨人、広島)
右下=投手力は高いが守備力は低い(阪神)
左上=投手力は低いが守備力は高い(中日)
左下=投手力、守備力ともに低い(DeNA、ヤクルト)
2013年のFIP・DERはどうなっていたか?
年度間の推移を見るために、2013年のデータを見てみましょう。2014年同様に区分すると、下記のようになっていました。
右上=投手力、守備力ともに高い(阪神、巨人、広島)
右下=投手力は高いが守備力は低い(中日)
左上=投手力は低いが守備力は高い(なし)
左下=投手力、守備力ともに低い(DeNA、ヤクルト)
※ただ、2013年は右上の巨人と阪神、リーグ平均程度の広島と中日、左下のDeNAとヤクルトという分類の方がしっくりくるかもしれません。
2013年→2014年でDERを大きく落とした阪神
2013年から2014年のFIP・DERの推移をまとめると、次のようになります。
・巨人はやや左下に移動(それでも右上のゾーンをキープ)
・広島はほぼ変わらず
・ヤクルトとDeNAはポジションが逆転(ただ、ともに左下のゾーンは変わらず)
・中日は右下のゾーンから左上のゾーンへ
・阪神は右上のゾーンから右下のゾーンへ
ここで、セ・リーグで最も大きく動いた阪神のデータを掘り下げてみましょう。
2013年の阪神はFIP、DERともにリーグトップであり、1試合平均失点や防御率もリーグトップと「ディフェンス力の阪神」を形成していました。FIPは毎年リーグ平均よりも高い数値ですが、DERがトップだったのは1992年以来21年ぶりのことでした。
2014年もFIPはトップであり、投手の基礎的な能力は高いレベルを維持していると考えられます。実際に奪三振率はリーグ唯一の8点台(他の5チームは6点台)と、メッセンジャー、藤浪らを擁する投手陣は他球団にとって脅威となっています。
ところが、2013年にリーグトップだった防御率は4位止まり。最初の図にあるように、1試合平均失点を見ても巨人、中日、広島より悪い数値となっています。この理由のひとつとして考えられるのが、リーグ5位というDERの低さ、すなわち守備力の問題です。
阪神が被ゴロをアウトにした割合
DERから一歩進んで、打球のデータ(被ゴロ)をどれだけアウトにできたのかというデータを見てみましょう。図は年度別に阪神の守備陣がどの程度ゴロ打球をアウトにしていたかを表すものですが、2013年はリーグ平均よりも高いアウト奪取率(74.9%)を誇っていたのに対し、2014年はその割合が急激に落ちている(69.7%)と分かります。図には載せていませんが、フライ打球をアウトにする割合はリーグ平均よりも高いので、2014年の守備力低下は主に内野手のゴロ処理に問題があるのではないかと推測できます。
ここでは詳しく触れませんが、打球データを基に守備力を測るUZRの「守備範囲」の項目においても、内野の複数ポジションでリーグ平均を大きく下回る傾向が見られています。
もちろん、FIPやDERはあくまでも目安のひとつです。ゴロのアウト率についても、必ずしも守備の責任ではなく、投手の責任な部分もあるでしょう。
ただ、FIPやDERのような基本スタッツを用いた指標でも、リーグ平均と比較することによってチームの戦力を簡易的に把握することができるのは確かです。リーグ平均と比較することは、セイバーメトリクスの中では重要な考え方となります。
今回は主に阪神を対象として、プラスαのデータも踏まえて解説しましたが、リーグページにある図からさまざまなチーム状況が類推できます。シーズン終盤戦に向けて、ひいきのチームがどのような戦力状況なのか考えてみると面白いかもしれません。