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コラム COLUMN

テンポが悪い投手は援護に恵まれないのか

山田 隼哉

「テンポの悪い投球をすると、味方の攻撃にも悪い影響が出る」

――テレビの野球中継などで、このような解説を聞いたことはないでしょうか。

 以前、投手の投球間隔に関するコラムをアップしました。投手の投球間隔には個人差があって、短い投手は試合のスピードアップに貢献し、長い投手はそれを妨げている可能性がある、といった内容です。(実際に読みたい方は下記のリンクをクリックしてください)


 その際、「投球テンポと味方打線の援護には関係性がないのではないか」という読者の方の反応をいくつか目にしました。つまり、冒頭に挙げたような通説はあくまで感覚的なものに過ぎないのではないか、との推察です。それならば、ということで今回はその真意についてデータから検証してみましょう。

援護率には個人差がある

 まず、1シーズン単位で見たときに、味方打線の援護を多く受ける投手と、そうでない投手がいるということを確認しておきます。右のデータは、2010年から2014年の5年間でシーズン100イニング以上を投げた先発投手を対象に、援護率別の人数を表したものです。援護率というのは、投手の登板中に味方打線が挙げた得点を、9イニング換算した数値です。

 これを見ると、9イニングあたりに5点以上援護をもらう投手もいれば、3点以下しかもらえない投手もいることが分かります。これで、援護率は投手によって個人差がある、ということが確認できました。本コラムのテーマは、こうした投手たちの援護率が、自身のテンポの良さや悪さに影響を受けているのかどうか、ということです。

投球間隔と援護率の相関性

 投球テンポと打線の援護に関係があるか否かは、以下の3つの要素をもとに結論を導き出したいと思います。

(1) 投球間隔と援護率の相関性
(2) 守備イニング時間と援護率の相関性
(3) イニング時間別の次イニング平均得点

 まずは(1)からです。投球間隔が短いと援護率は高くなり、逆に長いと援護率が低くなるのかを検証します。ただ、その前に投球間隔の定義について説明したいと思います。以前のコラムではあまり詳しく書けなかったため、一部の読者の方に混乱を与えてしまいました。

 ここで扱う投球間隔は、投球が捕手のミットに収まった(または打者が打った)瞬間から、次の投球が捕手のミットに収まる(または打者が打つ)瞬間までの時間を計測し、平均にしたものです。したがって、捕手が投手に返球するまでの時間も含まれていますし、ファウルでプレイが止まっている時間も含まれています。投球間隔については、そのようなものだと考えてもらえるとよいかと思います。では、本題に戻りましょう。

 これは、過去10年の先発投手(シーズン100投球回以上、のべ458人)をサンプルとした、横軸が投球間隔、縦軸が援護率の散布図です。右に行けば行くほど投球間隔が長い投手、上に行けば行くほど援護率が高い投手ということになります。つまり、投球テンポの悪さが援護率を下げることにつながるとしたら、左上から右下にかけて線のような規則性のあるプロットが確認できるはずですが、結果は全くと言っていいほど規則性がありません。残念ながら(1)の検証では、冒頭の通説は否定される形となりました。

守備イニング時間と援護率の相関性

 次に(2)です。投球テンポというものは、必ずしも投球間隔=1球ごとのペースという意味ではなく、味方が守備についている時間というニュアンスも含まれていると思われます。つまり、いくら投球間隔が短くても、四球を連発したり打ち込まれたりしたら、味方が守備についている時間は長くなるということです。そういったケースを拾うために、「相手の攻撃をさっさと終わらせる」という意味でのテンポを守備イニング時間として表し、援護率との関係性を検証します。

 ここでも、守備イニング時間の細かい定義を説明しておきます。これは、そのイニングの最初の投球が捕手のミットに収まった(または打者が打った)瞬間から、そのイニングの最後の投球が捕手のミットに収まる(または打者が打つ)瞬間までの時間を計測し、平均にしたものです。なお、投手交代や雨での中断、選手の治療、抗議などによる遅延が発生したイニングはすべて対象から外しています。ちなみに、過去10年で最も短い守備イニング時間は77秒でした。

 (1)と同様のサンプルで、横軸が守備イニング時間、縦軸が援護率の散布図を作りました。やはり、全くと言っていいほど規則性が見られません。残念ながら(2)においても、冒頭の通説は否定される結果となりました。

イニング時間別の次イニング平均得点

 最後に(3)です。長い時間がかかったイニングの直後のイニング、短い時間で終わったイニングの直後のイニング、それぞれに得点の入りやすさの傾向があるかを検証します。(2)はあくまで投手の平均した守備イニング時間と援護率の検証だったので、各イニングの前後関係が無視されていました。

 これも過去10年を対象に、イニング時間をいくつかに区切って、その直後のイニングの平均得点を求めました。しかし、やはり長いイニングの直後は点が入りづらいという傾向は見られず、短いイニングの直後に点が入りやすいという傾向も見られません。(3)でも通説が肯定されることはありませんでした。

投球テンポと味方打線の援護は無関係

 以上、(1)~(3)の検証から、「投球テンポと味方打線の援護は無関係」と結論づけて問題なさそうです。もちろん、断片的に見ていけば、投手がテンポよくイニングを終わらせてくれたから、攻撃陣に勢いがついて得点を挙げられた、というケースがゼロとは言い切れないでしょう。ただし、統計的に過去のデータから検証した結果、通説を裏付けるような傾向が見られなかったのもまた事実です。

 最近では日本のプロ野球も、コミッショナー宣言が出されるなど試合時間短縮の動きが進んでおり、投球テンポの良い投手などが再評価される可能性があります。でも、そんな彼らさえも、安定的な打線の援護という恩恵までは、受けることができないようです。