勝利投手に必要なものとは? ~2ケタ勝利を目指す投手たちへ~
オフ期間が間もなく終わりを告げるかのように、自主トレの様子や2015年への抱負を語る選手の声が耳に入るようになってきました。特に先発投手は「2年連続2ケタ」「最低でも2ケタ」のように、分かりやすい節目として2ケタ勝利を目標にしている投手が多いように思います。
投手の勝利数は非常に分かりやすい指標であり、シーズンで2ケタ勝てる先発投手は重宝されることが多いです。一方で、投手の能力以外に味方打線の援護点など外的要因の影響を大きく受けてしまうことも事実です。
先発投手が2ケタ勝つためには、どういった要素が必要なのでしょうか。
勝利投手になるための条件
先発投手が勝利するためには、大きく2つの要素が必要です。
①5回以上投げる(勝利チームの守備が6回未満の場合は4回以上)
②投手として出場中、あるいは代打または代走と代わった回に自チームがリードを奪い、
そのリードが試合終了まで保たれる
①はチーム方針や登板中のアクシデントなどを除けば、ほぼ100%先発投手の影響範囲といえるでしょう。
②についても投手が失点をなるべく防ぐことが重要になりますが、味方打線の援護点も非常に重要な要素であると考えられます。たとえば投手が9回を無失点に抑えても、味方が1点も取れないことには勝利投手にはなれません。試合終盤を救援投手に託す際にも、失点に対する援護点が多ければ多いほどそのリードを保つ可能性も高まります。
2014年の援護率から見えてくるもの
ここで2014年の規定投球回に到達した全投手の援護率をみてみましょう。12球団で最も援護をもらえていたのは石川雅規(ヤクルト)でした。9イニングあたり6点以上の大量援護を受けており、12球団トップとなる667得点をたたき出した強力打線の恩恵を強く受けていたことがわかります。その一方で、最も援護に恵まれなかったのが岩田稔(阪神)でした。援護率2.85はなんと石川の半分以下。他の投手と比べても飛びぬけて無援護に泣き、不運なシーズンとなってしまいました。
勝ち星にもやはり影響しています。援護に恵まれなかった岩田はリーグ2位の防御率2.54をマークしたのにも関わらず、2ケタ勝利にはわずかに届きませんでした。ちなみに防御率2点台をマークした投手で2ケタ勝利に届かなかったのは岩田だけです。その一方で大量援護に恵まれた石川や中田賢一(ソフトバンク)は、それぞれリーグワーストの防御率をマークするなど投球内容がそこまで良かったわけではありませんが、味方の大量援護の恩恵を受けてそれぞれ2ケタ勝利を達成しています。
勝利投手になるためには味方の援護点が非常に重要であることが、このデータからでも感じ取ることができます。
「投球回」と「援護点-失点」から見えてくる2ケタ勝利への道
ここからは2ケタ勝利を狙えるボーダーを考えてみたいと思います。2005年から14年の10年間において、2ケタ勝利を挙げた先発投手はのべ220名います。そのうち援護点よりも失点が多かった選手はわずか11名と全体の5%しかいませんでした。
右の表は過去10年における「投球回」と「援護点と失点の差」による関係から2ケタ勝利を達成できたかどうかの割合を示したものです。ちなみに過去10年では100投球回に満たない先発投手で2ケタ勝利を達成した投手はいませんでした。
投手にとっては非常に残酷な結果かもしれませんが、200投球回近くを投げても「援護点-失点」がプラスにならないことには2ケタ勝利を逃す可能性があるようです。実際に2006年の三浦大輔(横浜)は216 2/3投球回を投げ、防御率3.45を残したのにも関わらず、援護点が失点を11点分下回っており、この年は8勝に終わってしまいました。
一方で大量援護をもらうことにより、120投球回前後から2ケタ勝利の可能性が出てきます。2010年のマーフィー(ロッテ)がその代表格であり、先発では128 2/3投球回でしたが、援護点が失点数を57点も上回っており、チーム2位の12勝を挙げています。
援護点は各チームによっても水準が変わってきますが、2ケタ勝利への期待値程度には考えられるのではないでしょうか。
マウンドにひとり立つ投手の姿は時として孤独な存在に見えてしまいがちです。一方で、投手個人の成績にも味方打線の影響が大いに出ることを考えると、むしろ投手の方が打線にかける思いは強いのではないでしょうか。
スタンドから熱い声援を送るファンよりも、ベンチに座る投手の方が「打ってくれ!」と心の中では思っているのかもしれません。